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安らぎという幸福 Vol.12010.12.10 Friday
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雨音がだんだん強くなってきた。
カフェの窓の外を見ると、勢いよく流れ落ちる水滴を通して、
傘を持ち早足で歩く人たちがぼんやりと見える。
今年の梅雨は、例年よりも雨量が多い。
誰もがうっとうしそうな顔をしているけれど、実はレミは雨がそんなに嫌いじゃない。
確かに水は跳ねるし、髪のまとまりは悪いし不便ではあるが、そんなことどうでもよくなるほど雨音が好きなのだ。
ザーザーと、とめどもなく流れるBGMを聞いていると、心が洗われていくようで気分がスッとする。
このまま、ずっと何か月も梅雨が続いてくれてもいいのにな、とレミは思った。
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安らぎという幸福 Vol.22010.12.19 Sunday
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お見合いをしようと決意したのは、それから数日後だった。
突発的に、と言うわけではない。
以前、付き合っていた彼とうまくいかなくなったときから考えてはいたのだ。
三十三歳という年齢を考えても
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安らぎという幸福Vol.42011.02.07 Monday
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場所は、修学旅行に行って以来お気に入りの京都に決めた。レミはひとり旅が好きで、迷うことがあったり落ち込んだときは、大きなリュックを背負ってふらっと旅に出る。初めて見る風景、その土地の匂い、新しい出会い。非日常の空間に溶け込むことで、普段の悩みやイライラから解放された。自分を客観的に見るためにも、旅はレミの人生にとって欠かせないひとつだ。恋人はいなくても、心が安らかでいられる。そんな自分が誇らしくなった。
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安らぎという幸福 Vol.52011.02.27 Sunday
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午後三時。銀座のカフェでレミの前に現れた男性は、優しそうだけれど特に特徴のない風貌だ。あえて、しゃべらない人、という条件で半沢さんが選んだというだけあって、確かに無口だ。コーヒーをひと口のんで、あたりをくるっと見回し、また一口飲んで、黙っている。仕方なくレミから話しかけた。
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安らぎという幸福 Vol.62011.03.28 Monday
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日曜日の有楽町は、思った以上に人で溢れている。待ち合わせの15時より20分くらい早く着いたレミは、お茶をしようか迷ったが、ブラブラと歩いてみることにした。この日のために、丸井で買った紺のワンピースにベージュのストールが、秋のこの街にピッタリ合うような気がして、ちょっと嬉しくなる。そう、ブーツもそれに合わせて購入した。焦げ茶の皮のロングブーツで、後ろのふくらはぎ部分に同じ革素材のリボンが女の子らしくて可愛い。
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安らぎという幸福 Vol.72011.04.27 Wednesday
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その映画は太宰治の“ヴィヨンの妻”だった。
遊び人の主人を、その妻が何も言わずに支え続けるという夫婦愛を描いたストーリーだ。
古い日本の女性は、自分の主張も出来ず、なんて悲しい存在だったのだろうか。
奥ゆかしさや、いじらしさ、という美学は理解できるが、レミはその古臭い考えには反対だ。
お互いを平等に、尊敬しあうことで、ともに人生を歩んでいけるのではないか。
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安らぎという幸福 Vol.82011.05.04 Wednesday
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「私、ピアノ習っているんです」
レミから話を切り出した。
「へぇー、すごいなぁ。ピアノ弾ける人、尊敬するよ」
「今度、発表会やるんですよ」
「発表会って、すごい緊張しそうだよね。僕はムリだな〜。そういえば、僕も小学校の時、じつはピアノを習っていて。発表会がイヤで仕方なかったな」
「そうなんですか。私も今から緊張しているんです」
「がんばってね」
「はい。ありがとうございます」
ここで、会話が途切れた。
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安らぎという幸福 Vol.92011.05.11 Wednesday
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究極なマイナス思考に襲われたまま、1日中トラブル処理に追われ、
家についたのは夜中の12時を回っていた。
服のままベッドに横になって携帯を見ると、彼からのメールが2通来ている。
21時57分
『仕事終わった? 寒いから、風邪引かないように暖かくしなよ』23時17分
『もしかして、まだ残業中? 大丈夫? ちょっと心配しています』
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安らぎという幸福 Vol.102011.05.18 Wednesday
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ピアノの発表会当日、両親も来ていたので、必然的に彼も紹介することになった。
結婚を待ちわびている両親は、とても機嫌が良く、今までみたこともないような嬉しそうな笑顔で彼に接していた。
終了後、両親は先に帰り、彼とふたりで食事に行くことになった。
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